×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。



2015年3月6日公開ノベルゲーム
「夕焼け病」本編ダウンロード / ミニボイスドラマ「さざ波ときみの声」
夕焼け病特設ページ/こたつの上にドリアン公式サイト

イメージBGM/音楽の卵/「雨の日に」

※本編一周クリア後推奨
SS「落日に昇る」



一日の終わりに、私の一日が始まる。
夕日が浜は穏やかな気候の、世界の端っこにぽつんと在る町。
日没までの時間が世界で一番長い町。
昔はそれで観光地として栄えていたけど、今はそうもいかないみたい。
世界一の夕日が見れると謳われていたこの海岸は緩やかに人の影が消え、
通う人間も今は私しかいない。
幼い頃はこの砂浜で、色んな格好の「旅人さん」によく出会った。
その人たちは皆、大きな明日や今日に夢を持った瞳をしていた。
この町の夕日は全てを飲み込むように、手当たり次第橙に染めるのだけど。
旅人さんの瞳はいつだって、
夕日を跳ね除けるように透き通った、その人だけの輝きを放っていた。
旅人さんの話は誰の物でも面白かった。と思う。
何せ、あまりにも過去の話だから。ただ覚えているのは、見振り手振りで教えられる空の青さ、
風の強さ、雨のにおい。
そう言ったものに、まだ純粋に憧れられた、ということ。

どこかで鳥の鳴き声がする。ここには餌なんてないよ。
だから早くお行き。ここには夕日しかないから。
けど、終わりを迎えるには、ちょうどいい場所だと思う。
寝間着とストール、サンダルで来ても肌寒さを感じない気温。寄せては返す波の音、
たまに迷い込む鳥達。ぬるい風の音。
海のシーツにもぐるようにゆっくり、ゆっくりと沈む真っ赤な太陽。全てを赤く染める、太陽。
それしかないけど、私はそれしか知らない。

夕焼けの光以外毒になる私には、この海岸と、迎えてくれる病院と、旅人さんが見せてくれた記憶の欠片が世界のすべて。
「いつか治る」と先生は言うけれど。こんなまやかしみたいな病気には、きっとまやかししか効かない。
だから、先生には治療法は見つけられない。医療の知識なんてないけど、それだけはわかる。
まやかしは、見せてくれる人がいないと見えないものだから。
だから、きっと、先生には見つけられない。探してくれる人もいない。
この世界に、「旅人さん」はもう居ない。

でも、治らなくていいと思う。突然死ぬ病ではないと先生は言っていたし。……それすらも先生の願望かもしれないけど。
今がきっと、一番幸せ。
神様に一番近いところで、いつか静かに消えてなくなりたい。
誰にも言わないし、言えないけれど。これは、自分の胸の内にだけ納めていればいいから。
周りの人、そう、先生、看護師さん、患者のおじいちゃん、おばあちゃん。皆私に優しくしてくれる。
木綿で寒くないように包んで、揺り籠の中で眠らせてくれる。私は安心して、たまに目覚めては神様にお祈りに出かける。
この穏やかな日常に、不満を言っては、きっといけない。

痛いくらいの夕日をまっすぐ見つめて、今日も同じ結論に至りかけた時、砂浜を歩く足音が聞こえた。

身体が固まる――。誰?先生?看護師さん?
でも、皆、この時間帯にここには来ないはず。じゃあ……じゃあ?
足音は止まったけど、私の心臓は速くなる一方だ。
音を小さく鳴らすほどの唾を飲み込んで、振り返る。
やっぱり、知らない……男の人。だけどすごい荷物。
私より少し上の歳に見えるその人は、なぜかぎょっとした顔で私を見た。
不安と、ひとつまみの期待が籠って、私は口を滑らせる。
世界が、こじ開けられる音を聴きながら。





「旅人さん?」





2016/3/6